先祖はピラミッドという偉大な遺跡をエジプトに残したが、自分はエジプトに何を残すことができるのだろうか?
そしてたどり着いたのが、みんなが集い、ともに学ぶ公民館。
義務教育を変えるのは難しいが、社会教育(生涯学習)であれば少しずつ変えていくことができるはず。
日本の教育について学んだことをフェイスブックページ「グローバル公民館」(主にアラビア語)でコツコツ発信し続け登録者数は3,000人を超えました。
2017年12月25日には、エジプトで初のグローバル公民館講座を開催。
平日にもかかわらす沢山のエジプト人が講座に参加し大盛況に終わりました。
この講座を主催したのが、エジプト人のモハメッド・アブデルミギード氏です。
今回は、モハメド・アブデルミギード氏にグローバル公民館の誕生秘話についてお話を伺いました。
子供や孫のためになにを残すことができるのか?
世界青年の船に参加する前の私は、自分の夢を叶えるために生活し働いていました。
他の言葉に言い換えれば、私は自分自身のために生活していたのです。
観光学部でエジプトの歴史を学び、旅行会社へ就職後10年以上働きました。
そして、私の祖先が残した遺跡の偉大さを世界中の観光客に伝え、紹介できることをとても誇りに思っていました。
しかし、時々こう思うことがあったのです。
5,000年後の子孫が私達が生きた時代の人々をどんなふうに思い出すのか?
子供や孫のために私は、なにを残すことができるのだろうか?
そして、たどり着いたのが「グローバル公民館」です。
教育に関心を抱いたきっかけは何ですか?
「世界青年の船(SWY16)」という内閣府が実施するグローバルリーダー育成事業に参加したことがきっかけです。
世界青年の船での学びは、学校で学んだこととは全く違っていました。
13カ国から参加した約300人の異なった人生を歩んできた若者が、約2ケ月間ともに行動し生活することで、お互いの違いを自然に学んでいました。
世界青年の船では、参加者が活動を準備したり、自分たちの国の文化などを紹介したりしますが、そのやり方は人それぞれでした。
国によって受け止め方や発想が異なることに気づき、私は考え始めました。
どうして日本人はそういうことをするのだろうか?
どうしてアメリカ人はこんなふうに振る舞うのだろうか?
そして、エジプト人と各国との違いに気づき、考え始めました。
どうすればこの問題を解決することができるのだろうかと。
「教育こそが国の運命を変える。」
と思った私は、教育について学ぶため再度大学へ入学しました。
国際比較教育を専攻し、2つの教育の学位(国際比較教育の一般学位と特別学位)を取得しました。
公民館に興味を持ったきっかけは何ですか?
エジプトの教育を変えたいという思いは日に日に増していく一方で、すべての教育システムを変えるのは非常に難しいと考えていました。
義務教育を変えるのは難しいが、社会教育(生涯学習)であれば少しずつ変えていくことができるはず。
教育について更に学びを深めるため、大学院に進むことを決意しました。
修士論文を書くにあたり、インターネットで日本の生涯学習の状況を検索してみると、
最初にでてきた言葉が「公民館」です。
更に調べていくと、公民館がまさしく、私が探し求めていたものでした。
それは地域すべての人々が集まり、ともに学び、つながる場所でした。
- 人びとは興味や趣味によって自分たちを表現し、ともに共通の目標をつくる。
- お互いに助け合いながら共通の課題解決のために考えを共有する。
- 協力して、自分たちの生活を改善する。
私は日本で公民館というシステムを学び、比較研究としてエジプトでどのように役立てるかを学ぶことにしました。
地域の人々がつながる大切さを知った出来事
2011年アラブの春がおこり、警察が機能しなくなりました。
家の近くの刑務所から脱走した受刑者が私の住む地域に向かっているとの報道がありました。
警察がいない状態なので、自分たちの家族を自分で守るしかありません。
近所の住人が集まって24時間シフトで、地域の警備を行いました。
この時私は、地域の人々がつながる大切さを改めて実感しました。
緊急なことがあったとき直ぐ助けにきてくれるのは、遠くに住む家族や友人ではなく、地域の住民です。
地域の住民は平和のときも災害が起こったときも協力しあって助けあう家族となるのです。
公民館の可能性について
若い世代は、自分たちを自由に表現する場が必要です。
また、高齢者世代は、自らの経験を若い世代へ伝える場が必要です。
その場こそ公民館ではないでしょうか?
公民館で世代を超えて共有された経験や知識は、地域社会を作っていくことに大きく貢献します。
公民館は幅広い目的で活用することができる可能性があります。
私はすべての人々が自らを自由に表現し、知識を増やし、より楽しく魅力的な方法でお互いに学びあえる場を作りたいと思っています。
公民館がその場所であるべきなのです。
エジプトに公民館のような施設はないのですか?
エジプトにある、モスクや教会で行われる活動が日本の公民館での活動と似ています。
しかしそれらはいずれも宗教による縛りがあります。
同じ地域に住んでいても宗教が違えばそこに参加することはできません。
私は宗教に関係なくすべての地域の人たちが同じ場所に集まれると信じています。
お祈りをしたいときはモスクか教会に行く。
でも学びたいときは公民館に行くのです。
繁多川公民館との出会い
琉球大学教育学部の井上教授が公民館について色々と教えてくれました。
その中で印象的だったのが、公民館の3つのタイプです。
本来のコミュニティ・ラーニング・センターは、
コミュニティ(地域の人々の集まり)・ラーニング(学び)・センター(建物)
地域の人々が集まり、学べる建物です。
しかし、現在のコミュニティ・ラーニング・センターは、3つのタイプに分かれています。
- センター 建物だけがそこにあり、地域の人々がつどい、学んでいない。
- コミュニティ 建物があり地域の人が集まって交流はしているが、学ぶ講座や機会が提供されていない。
- コミュニティ・ラーニング・センター 地域の人々が集まり、交流し、学びの講座が開催されている。
私が始めて訪れた公民館は、①の公民館で、人もいなければ、講座が行われている様子もありませんでした。
公民館についてエジプトから日本に学びにきたのに私の考える公民館はどこにあるのだろうか?
そして、紹介していただいたのが繁多川公民館でした。
繁多川公民館の南さんから色々な話を聞き、実際に公民館講座を運営するお手伝いをさせて頂きました。
グローバル公民館は世界と繋がる窓
将来成功する人はコミュニケーション能力があり、協力することができ、分け与えることができる人達だと信じています。
寄付を与える人がいて援助をうける人がいるというかたちではなく、両者がWIN-WINの関係が理想です。
世界の人たちと出会い、一緒に活動をし、共に学ぶことで、新しい価値を生み出すことができれば、私たちの人生は、よりよい方向へ繋がっていくと信じています。
現代は情報とアイディアがインターネットを通して一瞬で世界中に伝わります。
日本の公民館が世界中の公民館(コミュニティラーニングセンターCLC)と繋がりをもち、ともに学びあうことが日本社会によい影響を与えることでしょう。
グローバル公民館は日本の公民館利用者にとって世界と繋がる窓になります。
まとめ
公民館は、あまりにも身近な存在だけに、その大切さに気づいていない方が多いのではないでしょうか?
私もその1人でした。
実際にグローバル公民館講座に参加することで、お互いを知り、ともに学び合い、そして人のあたたかさに触れることができました。
国境をこえ、国籍に関係なく、地域住民=世界住民として、お互いに学び合い、気づきが生まれ、新たな価値が創造されることに魅力を感じています。
今後もグローバル公民館の活動をお伝えしていきますので、お楽しみに!